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サブタイトルがカオスな件。
気にしちゃらめえ>< いいんだ、一度やってみたかっただけなんだ!
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6. カップラーメンはブローチを黒に染める? 本当にこのブローチが力を持っているのか、確かめればいい。 飛鳥はそう思った。さっき澪に警告されたにも関わらず、彼の心は願い事を叶えてくれるブローチへの好奇心に疼いていた。ベッドに身を投げ出し、ブローチを眺めた。澪に対する苛立ちが、彼を動かす一因となっているのは紛れもない事実だった。ヒナゲシの輪郭をそっと指でなぞる。 どうやれば願いをかけることができるのだろう。擦ったら妖精が現れるとか、普通に願い事を唱えるだけでいいとか、澪はこのことについて何一つ言わなかった。いや、言うはずがない。澪は飛鳥がブローチの虜になることを望んでいない。飛鳥自身が世界を破壊してしまうのではないかと警戒しているのだ。つまり、澪は飛鳥を信用していない。あの冷淡で、馬鹿にしたような笑いを見れば分かる。飛鳥は澪の表情を思い浮かべ、唇を噛み締めた。 さあ、どんな願い事をかけようか。やっぱり最初は成績を上げてください、といったところか。もう少し具体的なものじゃないと駄目かもしれない。 いざ願いを言ってみるとなると、自分が何を望んでいるのかよく分からなかった。自分が欲しいのは何だ? 飛鳥はベッドの上で考える。なかなか願いは浮かんでこず、そのまま時間は流れていった。 「……腹減った」 寝返りを打って、静かに呟く。そしてまさにその瞬間、飛鳥の頭に電撃のような閃きが走った。 ああ、そうか。別に深く考える必要なんか無かったんだ。今この時、望んでいるものをそのまま願えばいい。 そして飛鳥は、ブローチをかざした。窓から差し込む陽光で赤がきらめき、飛鳥はその花を改めて美しいと思った。美しい。そう呟いたとき、飛鳥の心の中で何かが崩れ落ちた。澪の忠告が蘇る。ブローチに願をかけるな。ブローチにそんな力がないから、黒烏なんて組織も存在しないから、澪は飛鳥に忠告したのではなかろうか。すべて嘘だから、澪は飛鳥がブローチに本気で願いをかけることを嫌がるのではないか。そんな考えも浮かんできた。 まあいい。その仮説が本当なのかどうか、先ほど閃いたことを実行すればすべて分かるのだから。 ブローチを机の上に置く。飛鳥はベッドから起き上がって、ヒナゲシの赤を見つめた。充分な間をおいてから、閃いたばかりの願い事を口にする。 「カップラーメン、ください」 あまりにも陳腐な願い事に、思わず自分でも苦笑してしまう。苦笑の表情はたちまちニヤニヤに変わり、瞬く間に飛鳥は腹を抱えて笑い転げる羽目になった。もう少しマトモな質問をすれば良かったと後悔はしたのだが、願ってしまったものは仕方ない。ベッドの上で足をばたつかせ、目に涙を浮かべてひぃひぃ笑いながらも、彼は少し懐かしい気持ちを感じていた。 願い事なんかしたの、何年ぶりだ? 小学校一年生のときの、地区の七夕祭りの時以来のような気がする。なにしろ、飛鳥は昔から冷めた子供だった。サンタクロースの存在は幼稚園の年長組の頃から信じることをやめて、友達と外で遊ぶこともせず、ただ地面に座ってぼんやりと空を見つめているような子供だった。七夕祭りの時にした願い事だって、友達に急かされたからだ。どうせ叶うわけないのに、とその年の割にはいやに大人びた冷笑をしながら短冊に願いを書いたことも覚えている。 そんな自分が、願い事だってよ。片腹痛い。瞳に溜まった涙を手で拭き取り、ブローチを凝視する。 ブローチはまったく動かなかった。妖精が出てくるわけでも、天井からカップラーメンが降ってくるわけでもなかった。飛鳥はほっと安堵の息を漏らし、乾いた声で笑った。ああ、自分はなんて愚かだったのだろう。あんな変てこな子供の戯言を真に受けて、挙句の果てに願い事なんてして。やっぱり、ブローチはただのブローチなんだ。黒烏という組織も、ヒナゲシの魔力も存在しない。全部あの女の作り話なのだ――。 飛鳥が机の上にあるそれを取ろうとしたまさにその瞬間、ブローチが急に発光し始めた。ヒナゲシの周りを彩る、淡いオレンジ色の光はあまりに眩しくて、飛鳥は思わず目を瞑った。一体何が起こっているのか分からなかった。恐怖が飛鳥の心の中を巣食う。何かを怖いと思ったことなんて、何年ぶりだろうか? 飛鳥は自分の手が冷や汗を掻いているのを感じた。 光は少しずつ弱くなり、やがて消えた。瞼の奥が点滅しているような感覚の中、飛鳥はゆっくりと目を開けた。 「マジかよ……」 飛鳥は消え入りそうな声で呟いた。 ブローチの隣に、カップラーメンが一つ置いてあったのだ。震える手でカップラーメンを掴む。振ってみると、確かにカップラーメンがしゃかしゃかと鳴った。紛れもなく本物だった。 飛鳥はそれをまるで壊れ物でも扱うかのような慎重な手つきでリビングに持っていった。やかんに水を注ぎ、火にかける。沸騰を待っている間、カップラーメンのラベルを剥がした。いつもやっていることなのに、何故か手が震えている。飛鳥はそんな自分に嫌気が差したのか、舌打ちを三回連続でする。チッチッチッ。それでも心は落ち着かず、唇の端をぎゅっと噛み締めた。 沸騰した湯をカップラーメンに注ぎ込み、タイマーを三分にセットした。三分という時間は長すぎず短すぎず、考え事をするときには最適だ、と飛鳥は思う。今までそんなこと、一度も思ったことなんてないけれども。 とにかく、澪は嘘なんてついていなかった。確かにブローチには不思議な力が備わっていたのだ、飛鳥はそれをこの目ではっきりと見た。その事実から、黒烏の存在も本当だろう。飛鳥はブローチをポケットにするりと滑り込ませた。 と同時に、携帯電話が鳴った。ディスプレイを一瞥したが、知らない電話番号が記されている。いたずら電話だろうか。しばらく放っておいたものの、諦める気配がない。 「しつこいっつの」 携帯を耳に押し付け、怒鳴った。一体誰がこんないたずらしてるんだ。こっちは世界がなんたらのブローチのことで頭がいっぱいなんだよ、お前なんかに構って――。 心の中で思いつく限りの罵詈雑言を浴びせた飛鳥は、やがて、電話の向こうの相手が彼の怒鳴り声にまったく萎縮していないことに気がついた。何かおかしい。 お前、誰だ? 飛鳥がそう質問する前に、相手は早口で喋り始めた。 「はあ。電話をかけた瞬間これですか。あなたって本当に……すいません、こんなことを言うのもあれだと思うんですけど、愚かですよね。礼儀の一つもなってない。電話がきたらどちら様でしょうか? って言うことを教えてもらわなかったんですか? まったく、祖母はどうしてこんな不心得な者にブローチを託したんでしょうか。だいたい、最近の若者は」 そこから先はあまりに早口すぎて聞き取れなかった。舌がもの凄い勢いで回っている。きっと奴は、今まで一度も早口言葉でつっかえたことはないんだろうなと勝手な想像をしつつ、飛鳥は咳払いをした。 「分かったから、うるせえから黙れ。お前の長話聞いてるとなんか虫唾が走るんだ」 電話口で澪がふふんと笑う声が聞こえた。顔が見えないぶん、思い切り嘲笑われているような気がして腹が立つ。飛鳥は携帯をギュッと握り締めた。新型でブラックの軽量タイプは案外に脆く出来ているのか、みしり、と小さな音を立てた。怒りに身を震わせている飛鳥にはまったく聞こえていなかったが。 「虫唾が走る? あなたにしてはまともな言い回しですね」 澪の皮肉にいちいち激昂するのも疲れてきたので、飛鳥は彼女の言葉を無視することにした。無視したらそれはそれで、彼女のご機嫌が斜めになることぐらいは分かっているのだが仕方ない。こうも長々とお説教されると話が先に進まない。だいたい、澪と電話で楽しくお喋りしている場合ではないのだ。ブローチが気になる。もしかしたら、願い事をよく考えれば大きな利益を得ることが出来るかもしれない。テストの点数がアップして、学年トップの座にずっと君臨して……、喧嘩が強くなることを願えば、クラスの連中を羽交い絞めにすることだって夢ではないかもしれない。そんな妄想をすればするほど、飛鳥の顔のニヤニヤは広がっていった。 「やたらに無口ですね。電話は苦手なタイプなんですか?」 長い間沈黙していたのを不審に思われたらしい。 飛鳥はようやく我に帰って、「あー、うん、電話はちょっと苦手で」と曖昧に返事をした。澪の勘を侮ってはいけない。そう思うと同時に、飛鳥は重要なことに気がついた。携帯電話を更に強く握り締める。手には青白い血管がくっきりと浮かんだ。 「おい、お前。なんで俺の携帯に電話してんだよ。番号も教えてないのに」 「ふっふーん」 今度は嘲笑ではなかった。得意げに笑っているような声色。それが飛鳥の感情を逆撫でしていることに澪は気づいているのか。飛鳥は舌打ちした。こんなところでも彼女に弄ばれているのが腹立たしくて、悔しい。 キッチンに置き去りにしてきたカップラーメンが気になる。そういえば、タイマーはとっくに鳴ってしまった。しかしここで澪にカップラーメン云々なんて説明したって、解放してくれない事ぐらい分かっていた。最後まで話を聞いてくれそうにもない。 ほんの少し間を置いて、澪が話し始めた。姿の見えないはずの電話口からでも、得意げに胸を張る澪の姿が予想できた。 「実は先ほど、あなたのお宅を訪問したときに、勝手に携帯のアドレスを調べさせていただきました。案外簡単でしたよ、あなたの行動、隙だらけですもの。話していてもぼんやりしてましたし……あ、念のために言っておきますが、アドレスを調べたのはあなたがキッチンでコーヒーを淹れているときですよ」 ああ、腹が立つ。 飛鳥は大きなため息を一つついて、携帯電話に向かって怒鳴った。 「どうでもいい。何の用件か教えろ! こっちは忙しいんだよ」 澪はふんと鼻を鳴らした。嘲笑でもなければ、自慢の笑みでもない。というかこれは笑っているのではなくて、気分を害しているような気がする。我侭も大概にしてくれ。飛鳥は苛立ちをソファに置いてあるクッションにぶつけるかのように、それを投げた。クッションは窓に激突し、頼りない効果音とともにフローリングに落ちた。 携帯を耳に押し当てたままカップラーメンの様子を見た。案の定、麺は伸びきってしまっていた。 どうしてくれるんだよ、俺のラーメン。喉まで出かかった言葉を奥歯で噛み殺す。 「用件はずばり、胸騒ぎがするということです」 「はあ? お前、ふざけ」 「別に私、超能力なんて持ってませんし、未来予知なんてもちろんできません。でも、昔から勘はいいんです。――胸騒ぎがするんです」 飛鳥は眉根を額の真ん中に寄せた。彼女の勘を信じる気は微塵もないが、それでも聞いておかなければならないような気がした。澪の「勘がいい」発言の真偽はともかく、飛鳥の勘は当てにならない。それは自分が一番よく知っている。 「ブローチに危険が迫っています。何者かが、ブローチを黒に染める……そんな気がするんです」 澪の声色が急に低くなる。飛鳥はごくりと唾を飲み込んだ。彼女が言っていた事を思い返す。 「黒に……っていうのは、願い事をかけたらそうなるんだっけ」 「ええ。小さい願い事の積み重ね、あるいはとてつもなく大きな願いによって、ブローチは黒に染まります。そして世界を……」 「闇に、陥れる」 まさか、と思いつつも、飛鳥の心の中がざわめく。まさか、そんなわけがない。願い事はさっきの一回しかしていないんだ、この自分がブローチを黒く染めるだなんて……まさか。 飛鳥の心の内を知らない澪は、乾いた笑い声を上げた。勘の鋭い彼女でも、飛鳥の心の中は読めない。 「頼みますよ。絶対に願い事なんて、しないでくださいね。肌身離さず、ブローチを持ち歩いてくださいよ」 「はいはい分かった分かった」 「それでは、さようなら」 携帯の電源を切る。麺が伸びたカップラーメンを見つめる。まさか、自分がブローチを黒く染めるだなんて。そんなことありゃしない。それよりも黒烏の何者かが接触してくるかもしれない。第一、澪の心配が杞憂に終わる可能性だって十二分にあるのだ。 そう考えると、少し元気が出た。飛鳥は汁をたっぷり含んでぶよぶよになったラーメンを一気にすすった。 * PR この記事にコメントする
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