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みまなの小説置き場と化してます。(・∀・)
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ストックがなくなって涙目wwwwwwww

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 5.   秘密と黒烏と……。



 澪は入れたてのアメリカンコーヒーをぐびぐびと飲んだ。熱いの一言も言わずに、無表情のまま一気飲みをしている澪を、飛鳥は穴の開いたような目で見つめていた。どこまでも奇妙な中学生である。
 熱々のコーヒーを飲み終わると、澪はカップを置いた。飛鳥はしばらく硬直していたが、澪にもの凄い形相で睨まれ、居心地悪そうに身じろぎする。そんな様子を睨み続けていた澪は、一呼吸置いて話し始めた。

「単刀直入に言うと、私の祖母は命を狙われていました。祖母は頻繁に住居を変えていました、奴らに所在を感づかれないように気をつけて。――それでも、奴らは祖母の居場所を突き止め、殺した。これは通り魔の犯行なんかではない。私は犯人を知ってます。奴らなんです」

 泣きそうな声で喋りながらも、澪は涙を一滴も流さなかった。
 そんな彼女を、強いな、と思う。見かけはただのあどけない、背伸びして大人ぶっている中学生かもしれないが、その精神は強靭なものだと感じた。
 飛鳥は、老婆が殺されたと知っても微塵も驚かなかった。予想通りか、と大きく息を吐いただけ。澪も飛鳥の反応をあらかじめ予測したのだろう、飛鳥が平然としていても驚く素振りなど少しも見せなかった。
 でも飛鳥には彼女の話に関して、一つだけ聞きたいことがあった。

「奴らというのは?」

 澪は何も答えず、代わりにコーヒーのおかわりを催促した。飛鳥はやれやれと肩をすくめ、まだ僅かに湯気を放つコーヒーを入れてやった。今度は一気飲みをせず、一口だけ飲み、カップをテーブルに置く。一息ついたところで、澪は飛鳥の質問に答えた。

「ブローチを狙う組織の人々のことです。私たちは彼らを、黒烏と呼びます」
「ブラック・クロー……?」

 澪は頷き、コーヒーをもう一口だけ飲んだ。飛鳥も生ぬるくなったコーヒーを飲む。砂糖のざらざらした感覚が舌に伝わり、それが気持ち悪くて、彼は眉根を寄せた。飛鳥がカップをテーブルに置いたのを見計らって、澪は話を再開した。
 腰まで伸びた黒髪が揺れる。
 あまり見つめていると今度はコーヒーを頭から浴びせられそうだと思い、飛鳥は彼女から目を逸らした。視線は自然と、淡い茶色のテーブルに刻まれた木目に移る。

「そう、ブラック・クローです。彼らは長年、私の祖母が持っていたブローチを狙っていました」

 その言葉を聞いて、何かが飛鳥の心に引っかかった。
 彼が疑問の表情で澪を見上げると、彼女はかすかに笑った。一瞬だけ、しかも笑っているのか怒っているのかよく分からない、複雑な笑顔だった。澪はすぐにその表情を引っ込ませ、無表情になった。飛鳥の疑問はちゃんと把握している、と言いたげに、彼女は飛鳥の質問を目で制した。その瞳に宿る光に気おされ、飛鳥は開きかけた口を閉じた。

「あなたが聞きたいのは、何故奴らがブローチを狙っているのかということでしょう?」

 異論なし。
 飛鳥は黙って頷いた。澪も頷き、話を続けた。

「信じてくれないかもしれませんが……いえ、あなたのことだから信じないと思いますが、お話します。あなたが持っているあのブローチは、ただのブローチではありません。世界を変える力を持っているんです」
「は」

 それしか言えなかった。澪の気が狂ってきたのかと本気で思った。
 飛鳥は宇宙からUFOに乗ってやってきたエイリアンを眺めるような目つきで澪を見た。その表情は澪をこの上なく不快にさせた。澪の無表情はたちまち崩れ、怒りと失望が露になった。自分の戯言を信じてくれない飛鳥を責めるようなその顔は、彼を戸惑わせた。
 信じないと思いますが、と言ったのはお前自身じゃないか。
 飛鳥はそう言ってやりたいのをぐっと堪え、澪の顔を挑むように見続けた。ここで彼女の感情を逆撫でするようなことを言ってしまえば、おそらく、澪はそのまま帰ってしまうだろう。それは嫌だった。馬鹿な妄想人間の戯言とはいえ、皮肉なことに、話の続きが気になっていたのだ。

「あのブローチは人の願いを叶えてくれる、お伽噺に出てくるような夢のアイテムなんです。彼らはそのブローチの存在を知り、狙っています。彼らの目的はただ一つ、自分たちが世界を支配しようと企んでいるのです」

 飛鳥は何も言うことが出来なかった。
 これは夢なのか? 夢であってほしい。そうじゃなかったら多分澪は何らかの病気か暗示にかかっているんだ。可哀想に、変な占い師に引っ掛けられたのかおかしな宗教に入信しちまったのか。とにかく彼女の言っていることは現実的に考えて有り得ない。願いが叶うブローチ? そんなものが存在したら、今頃世界はあの死んだ老婆が操ったものになっているはずだ。
 そう思いつつも、飛鳥は内心恐ろしかった。今ブローチは、彼の手中にあるのだ。もしもその狂った話が本当だとしたら、その黒烏とかいう組織は自分を狙うのではないか……。そんな恐ろしい考えを、飛鳥は必死に振り払った。耳を塞げばいい。彼女の話など聞かなければいいのだ。
 飛鳥の心の葛藤など知る由もなく、澪の話は続く。

「私の祖母はそんな黒烏から、ブローチを守り続ける役目を背負った護り人でした。祖母は命を狙われながらも、ブローチを守り続けました。……そんな彼女に異変が訪れたのは一週間ほど前のことでした」

 澪は苛立ちの表情を浮かべながらも、語気を荒げることは一切しなかった。彼女は感情を抑制する能力まで持っていた。飛鳥はそんな澪を、心底羨ましいとさえ思った。馬鹿な戯言云々は別として。

「祖母は私に言いました。自分はもうすぐ死ぬ、奴らに見つかった、と。そしてブローチをあなたに託した。何故なのかは私にも分かりませんが、何か考えがあったのでしょう」
「どうしてお前がブローチを持たなかった? お前は孫娘なんだろ、普通はそういうものって親族が……」
「甘いですね。祖母がブローチを持っていないと分かった黒烏が狙うのは私。私がブローチを継いでいないのかって。普通はそう思うでしょう」

 澪が馬鹿にしたような笑みを浮かべる。飛鳥は更に気を悪くした。その有名中学校の制服を着た女が憎い。自分よりも年下の中学生の女なんかに馬鹿にされていると思うと、自分がやりきれなくなってくる。飛鳥は苛立ちを押さえる意味もこめて、コーヒーを飲んだ。コーヒーはさっきよりもさらに冷たくなっていた。砂糖が舌にざらついて気持ち悪い。

「まあ彼らは私を殺す前に、ブローチを持っていないことに気づくでしょう。奴らもそう馬鹿ではありませんから。そして、祖母がブローチを誰に託したのか、必死に捜すでしょうね」
「おい、ちょっと待て。つまり俺はお前のばあちゃんみたく家を転々として、命を狙われる危険に怯えなければいけないのか?」

 なんてことだ。飛鳥は内心憤慨していた。仕事も何もない、強いて言えばブローチを守ることだけが生きがいの老婆ならまだしも、飛鳥はまだ高校生である。そんな時期から家を転々とし、いつ殺されるかなんてことを考えるというのはあまりにも理不尽すぎる。
 第一、飛鳥にブローチを渡した老婆も無責任すぎる。席を譲っただけの関係だった飛鳥にブローチを託し、それを黒烏から守れなんて。しかも本人からの説明なんて何もなかった。ただブローチを渡されただけ。あの老婆は飛鳥を何だと思っているのだろうか。飛鳥と老婆には関係などほとんどない。言葉を交わしたのも、顔を会わせたのも、あの電車の件一度きりだ。
 飛鳥が澪にその旨を説明すると、彼女は納得したように深く頷いた。

「さすが祖母。賢明な判断ですね」

 いや、頷かれても。
 飛鳥は小さく舌打ちをした。物知り顔で頷いている目の前の少女をぶん殴ってやりたいとも思う。

「まあつまり、接点が僅かしかない人物の方が都合良いんですよ。私はもちろん、親戚にブローチを託すことは絶対にできない。友達も無理、あいつらは私たちの交友関係を完全に把握しているから。見ず知らずの人に渡すわけにもいかないし、祖母は一人困り果てていたんだと思います。そして現れたのが……あなた」
「でもどうして俺に? 少ししか接点のない奴なんて、いっぱいいるだろうに」
「意外性ですよ。まあちょっと失礼なことを言いますが、朱音高校はこの辺りでも有名な不良揃いの学校。そんなおバカ学校に通うあなたが、世界の命運を握るブローチを守っている、なんて誰も考えないでしょう?」

 飛鳥は澪を睨んだ。自分がただのバカ呼ばわりされているようで、不快だったのだ。澪は飛鳥が怒ることも充分に見越していたらしく、涼しい顔をして座っている。
 澪の言ったことはまさに図星を突いていた。だからなおさら腹が立つ。確かに、朱音高校に通う飛鳥がブローチを持っているなんて、黒烏の連中は微塵も思わないだろう。更に飛鳥は老婆の血縁者でもなければ、友人としてもまったく繋がりがない。飛鳥とブローチを見つけることは相当難しいはずだ。日本中の人間を探ってみたりしない限り、黒烏の矛先は飛鳥に向けられない。
 澪がニヤッと笑う。その顔は余りにも意地悪だった。

「じゃあ決まりですね。まああなたがブローチを拒んだところでどうにもなりませんが」

 そして立ち上がる。スカートの裾を綺麗に直してから、スクールバッグを肩に掛けた。言うだけ言って帰るつもりらしい。飛鳥は澪に逃げられる前に、彼女の腕を掴んだ。澪が本気で驚いた表情で飛鳥を見、その直後怒りの表情を浮かべる。澪は悪態をつきながら飛鳥の手を振り払った。三歩ほど後退り、飛鳥をキッと睨みつける。その様子はまるで、尻尾を踏まれて気分を害した猫だった。澪は猫ほど華奢でしなやかではないが。
 飛鳥は澪が妙な誤解をしていると知り、今度は澪にも聞こえるほどの大きさで舌打ちした。

「あのな、俺は別にお前をどうかしようなんて思ってないから。ミジンコほどの大きさも思ってないから」

 まさに本心だった。
 澪はそれを聞いてもまだ警戒しているようで、大きく息を吐いた。しばらく飛鳥を睨みつけ、ふんと鼻を鳴らした。

「それは良かった。安心しました」

 まったく嫌な少女だ。
 澪の腕を掴んだのは質問したかったというただそれだけの理由だ。どうしてそんな誤解をされなくてはならない。飛鳥は内心で悪態をつきながらも、落ち着き払った声で問う。

「あのさ、そのブローチの不思議な力とか何とかってマジか?」
「ああ。忘れてました。そのことに関して補足があります。本当に重要なことを忘れるところでした」

 澪は飛鳥の質問をあっさりと無視した。もしかしたら、聞いていないのかもしれない。
 飛鳥の表情がまた憤怒に満ちるのに気づいていない振りをして、澪は静かに話した。

「ブローチには絶対に願をかけないで下さい。黒烏たちは知らないのですが、このブローチは願いを叶える力を使っていくと、少しずつ黒みを帯びていくんです。些細な願い事……たとえば、テストの点数をあげてほしいといった願いなら、あまり色に変化は見られません。そういう願い事が積み重なった場合はまた別ですが」
「いや、俺の質問の答えは」
「しかし、黒烏の目的つまり世界を支配するという大きな願い事は、ブローチを一瞬にして真っ黒にさせます。真っ黒になったブローチは、この世を闇に陥れるといわれます。黒烏はそのことを知らない。だからこそ、ブローチを守らなければならないのです。それではさようなら。何度も言いますが、ブローチに願をかけないで下さいね。一回かけてしまうと、中毒みたいになるかもしれませんから」

 澪はそう告げると、飛鳥の家を後にした。
 リビングに棒立ちのまま取り残された飛鳥は、深いため息をついた。自分は奇妙な領域に足を突っ込んでしまったらしい。
 部屋に戻って、ブローチを手に取る。毒々しいほど真っ赤に色づいたヒナゲシは、飛鳥を憂鬱にさせた。澪の言ったことがまだ信じられなかった。黒烏という組織の存在も、ブローチの持つ力のことも、何一つ。
 それでも向き合わなければならない。ブローチを持ってしまった以上、すべてに立ち向かわなければならないのだ。もしも、あの時席を譲っていなかったら。別の奴が席を譲っていたら。飛鳥は自分がそう思っていることに自己への嫌悪を抱いた。舌打ちする。これで今日、何回舌打ちしただろう。
 ブローチを守り抜くことが出来るだろうか? 答えは分からない。やはりまだ話が信じられないのだ。これが夢であって欲しい。ただの夢だと笑い飛ばせればいいのに。
 悪い考えが、ふと飛鳥の心をよぎった。思わず苦笑する。――まさか、な。乾いた笑い声を漏らし、ブローチを翳した。




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