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みまなの小説置き場と化してます。(・∀・)
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澪のキャラが定まらない。
とにかくただ奇妙なだけの子になりそうな悪寒。

*




 4.   物語は突然に



 夕方のニュースの時点では情報がまだ少なかったのか、あまり詳しい説明はされていなかったが、夜中のニュースではトップニュースとして扱われていた。何しろ商店街の中で人が殺されたのだ。あたりに大型商業施設ができて、この辺りの商店街は過疎になっていたとはいえ、白昼の殺人事件はメディアの興味をそそるものだった。
 飛鳥はテレビの前に座って、その画面をぼんやりと見つめていた。現場に向かった男性レポーターは、立ち入り禁止を示す黄色いテープの前に張り詰めた表情をして立っている。辺りは人っ子一人通らず、ひっそりとしていた。

「犯行があった時間は人がほとんど通っておらず、目撃者もいないということです。警察は必死の捜査を続けています。明日からは周辺の聞き込み調査を――」

 それにしても、何故老婆が殺されたのだろう。それも彼女の形見のブローチを飛鳥が手にしたその日に。
 ただの通り魔の犯行の可能性も否定できないし、偶然といえば偶然なのかもしれないが、飛鳥には予感がしていた。それは自分でも驚くほどの確信があった。――これは通り魔なんかの犯行ではない。老婆に何らかの接点を持った者の殺人だ。
 だが自分の考えに確信はあるとはいえ、それを口に出そうとは思わなかった。自分がそんな確信を持っていることに確信が持てない。なぜ自分がそんな考えを起こしているのか、分からないのだ。
 もしかしたら俺、占い師の才能あるかもしれないな。飛鳥はそんな冗談を考えながら、自分で自分を哂った。
 ふと、赤いブローチのことが頭をよぎる。だが飛鳥はすぐにそれを頭から追い払った。赤いブローチが老婆の死を暗示しているみたいで、飛鳥にとってはそれを思い出すのは苦痛なだけだった。
 気がつけば日付も変わってしまっていた。飛鳥はソファにますます深く体を埋める。
 テーブルの上で紅茶を飲んでいた飛鳥の母親が、背後から声をかけた。

「飛鳥ー、あんた珍しいわね。こんな遅くまでテレビ見てるなんて、しかもニュースを」
「そうか?」

 飛鳥はだるそうに首を回し、母親を見る。飛鳥は母親似だ。小さい頃からずっとそう言われてきた。隣の部屋から父親の鼾が聞こえてくる。飛鳥の父親は帰宅して夕飯を食べ、風呂に入るとすぐに就寝する。幼い頃からの習慣なのだという。飛鳥も夜には自分の部屋に引っ込んでしまうので、夜のリビングには母親だけがいることが多い。こうしてリビングに二人がいることはかなり珍しいことだった。
 飛鳥の母親は煙草をくわえ、それに火をつける。

「そうよ。あんた夜はいっつも部屋に引っ込んで音楽聴いてるでしょうが。なのにここでテレビ見て、しかもニュースだなんて。どういう風の吹き回しよ」
「別に。たまにはニュース見ててもいいだろが。――寝る。おやすみ」

 飛鳥はリモコンに手を伸ばし、電源を切る。
 リビングが静寂に包まれる。先ほどまでテレビの喧騒の中に居た途端の静寂というのは、どこか飛鳥を落ち着かなくさせる。飛鳥はソファから腰を浮かせ、立ち上がる。煙草を吸っている母親を見て、思わず顔をしかめた。徐々に煙で覆いつくされていく空気を手で払う。

「母さん、煙草吸うなよ。嫌いだって言ってんだろ」

 苛立ちの篭った息子の声に、母親が顔を上げる。それと同時に濁った煙が吐き出され、空気と溶け込んでいく。母親は飛鳥の嫌そうな表情を見て、「ごめん」と一言だけ呟き、肩をすくめた。

「やめられないのよね」
「中毒ってやつかよ」
「そうね」

 母親は素っ気無く言い、もうこれ以上何も言うつもりはないというように、再び煙草を口にくわえた。飛鳥は黙ってリビングから出て行き、そのまま自室に篭った。
 いつもならロックのCDをガンガンかけるのだが、今日はそんな気分ではなかった。飛鳥はベッドに倒れこむように寝転がる。頭の隅にはあのブローチが引っかかっていた。
 結局、あれは何なのだろう。何故飛鳥に託したのだろう。それは永遠に分からずじまいになる謎だった。何にせよ、飛鳥にブローチを渡した老婆は死んでしまったのだ。何者かに殺されてしまったのだ。
 飛鳥は寝返りをうって、老婆について考える。考えるうちに、飛鳥は深い夢の世界へと引き込まれていった。

 翌日は土曜日だった。
 朝から部活があるのは分かっていたが、どうせまともに活動はしないだろうし、母親には適当に誤魔化しておいた。いわゆるサボリ。母親もそこまで鈍感ではないはずだから、飛鳥が部活をサボることに気づいただろう。それでも何も言わなかった。怒っているのか、悲しんでいるのか、はたまた本当に放任主義なのか。そんなことは飛鳥の知る由もなかった。どうでもいい。
 階段を上がってくる足音が聞こえた。また母親だ、飛鳥は直感した。

「飛鳥ー、母さん仕事行ってくる。お昼は適当に食べといてね」
「分かった」

 部屋のドア越しに聞こえた母親の声は、いつもと同じく明るかった。飛鳥はそんな母親の言葉に素っ気無く返事をする。母親はそれで充分に満足したようで、階段を降りていった。
 父親は会社の上司の接待でゴルフ、母親はいつも通りの仕事。平凡な日常だ。昨日が異常すぎたからかもしれない。
 席を譲った老婆が死に、彼女の形見のブローチが飛鳥の手に渡る。漫画ならばそこからストーリーが始まる。けれど――これは漫画ではなくて、現実。現実にはブローチから大魔神やら妖精やらが出てくるわけないし、ブローチは隠された魔法のアイテムだったなんてこともない。そんなことは分かっていても、ブローチが気になってしまう。昨日の非日常を考えてしまう。

 母親が家を出てから三時間。棚にあったカップラーメンを食べ終わった直後のことだった。
 飛鳥の耳に入ったのは、インターホンの機械的な音。三回ほど鳴らされた後、飛鳥はそれに気づいて玄関に向かった。覗き穴から外を確かめてみる。ドアの外にいたのは見たことも無い少女だった。飛鳥は戸惑いながらもドアを開ける。

「あ、いましたか。よかったです」

 飛鳥がドアを開けた瞬間、少女は早口で喋りだした。
 目の前に立っている少女は細身で、身長もかなり低い。普通に私服で道を歩いていると小学生に間違われそうだ。けれども小学生ではないことはすぐに分かった。彼女は制服を着ていた。それも、この地区ではかなり名の知れた私立中学校のセーラー服を。
 そんなエリート少女が、馬鹿高校に通う飛鳥に何の用事があるのだろう。
 少女は飛鳥に質問させる隙も与えず、喋り続けた。

「いなかったらどうしようかと思いました。私ってお小遣い少ないから電車代とかも結構打撃になるんですよね。まあ在宅しているってことで一安心しました。まあいなかったらいなかったで途方に暮れながらもずっとここで待ち続けるつもりだったんですけど、」
「あの……どちら様?」

 何の用事ですか? と訊いても良かったのだが、飛鳥は彼女の人柄そのものに猛烈に惹かれていた。やたら早口ですらすらと言葉を繰り出すこの少女、飛鳥の知る中でも特殊なタイプだった。……飛鳥の知る女など教室でメイクをする不良女ぐらいしかいないのだが。
 少女は露骨に顔を歪め、飛鳥を軽く睨み付けた。言葉を遮られたのが気にくわなかったらしいが、遮らなければおそらく永遠に喋り続けていただろう。彼女の早口言葉にはそれほどの勢いとインパクトがあった。

「あ、申し遅れましたすいません。私は城崎 澪と申します。誕生日は三月三日のひな祭りまたは耳の日、血液型はAB型でRH+、ここから電車で五駅の九里駅から徒歩五分の距離にある、私立」
「いや、詳しい自己紹介は後で聞くよ、城崎さん。どうもありがとう」
「あなたは人の話を最後まで聞かないんですね。そういう癖は直した方がいいですよ、祖母もよく言っていました。人の話を最後まで聞かなければ難解な話の理解など到底できないと」
「あー、お説教もあとで聞く。それで、城崎さんは俺に何の用?」

 城崎 澪は不愉快そうにふんと鼻を鳴らした。澪の飛鳥に対する第一印象は恐らく最悪だろう。
 澪の黒く艶やかな髪に見とれていると、彼女もそんな飛鳥の視線に気がついたのか、ギョッと白目をむいて後退った。今度は飛鳥が不愉快になる番だった。こんな不審者でも見るような目で後退られるとさすがの飛鳥もプライドが傷つく。
 澪は気を取り直してとでも言いたげに、コホンと咳払いを一つした。

「辻井 飛鳥。あなたに用があって来ました」

 うん、いやだから分かってるってば。
 喉まで出掛かった言葉を懸命に飲み込む。口に出してしまえば確実に話が先に進まなくなる。

「用事というのはずばり、私の祖母についての話です」
「祖母?」

 飛鳥は面食らった。
 澪の祖母と飛鳥に何の関係があるのだろう。だいたい、何の約束もなしにのこのこと人の家を訪ねてきて「祖母の話をします」というのはあまりにも突飛すぎて、奇妙だ。
 澪は飛鳥の戸惑いを見逃さなかった。つんと顎をあげ、馬鹿にしたような微笑を浮かべる。それが彼を余計に苛立たせた。次の彼女の一言がもう少し遅ければ、恐らく大声で怒鳴っていただろう。

「私の祖母からブローチ、貰いましたよね」
「ブロー……チ?」

 飛鳥は澪の放った一言を反芻する。すべてのピースが頭の中に嵌められていった。
 ブローチ。澪の祖母。飛鳥。すべてが繋がっていく。あの時席を譲った老婆は、澪の祖母だったということか。つまりは、あの祖母には孫娘がいる。それなのに、何故ブローチを澪ではなく飛鳥に託したのだろう。
 飛鳥は澪の顔を見つめた。細身で身長も低いが、顔立ちは大人びていて、薄桃色の頬が健康的なイメージを与えている。美人とも可愛いともいえない、独特の雰囲気を持つ顔をしていた。それはそれで美しいともいえる。彼女ならばあのブローチを手にするにふさわしいだろう。彼女の姿にヒナゲシの赤はよく似合いそうだ。それなのに、どうして。

「あなたの質問には後で答えます」

 飛鳥の疑問を見透いているかのような声だった。静かで、落ち着いている。

「その前に、あなたの家に上げてもらえませんか? 立ち話もなんだと思うので」
「あ、そうだな。えっと……どうぞ、散らかってるけど」

 飛鳥が答える前に、澪は既に玄関に入って靴を脱いでいた。飛鳥は澪に聞かれないように注意しながら舌打ちする。どこまでも図々しい女だ。ましてや飛鳥の方が年上なのだから。敬語の癖に態度はでかい、そんな澪を追って飛鳥も家に入った。
 不思議な少女だと思った。不思議というか、ただ単に変人なのかもしれない。どっちも当てはまるのかもしれない。とにかく、飛鳥の心には何か嫌な予感が影を刺していた。
 やはり図々しくリビングのテーブルに座り、コーヒーの缶を物欲しげにじっと見つめている澪を見て、飛鳥は深いため息をついた。そして少しだけ怒りに顔を歪めながら、コーヒー缶を開けた。




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