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みまなの小説置き場と化してます。(・∀・)
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いちねーんさんくみー!
しんどーせんせーっ!!!



ネタバレしない程度にここの文章を書くのは至難の業です。

*




 2.   馬鹿で悪いんですか?




 一週間も経つと、飛鳥はあの老婆のことなどすっかり忘れていた。彼女のあの視線は未だに不愉快ではあったが、悪意のこもったものでは無いということをようやく理解した。
 飛鳥はいつも通り大幅に遅刻して、朱音高校に到着した。お気に入りの腕時計を見ながら時間を確認する。現在三時限目。いつもとだいたい同じくらいの登校時間だ。飛鳥は自分の教室を校庭から見上げると、小走りに玄関へと入って行った。

 一年三組と書かれたプレートが掲げてある扉を開け、飛鳥はいかにも眠そうな顔をして教室の中に入った。授業中だというのに携帯電話をいじっていたり、騒がしくしていた生徒たちが一斉に静まる。皆を静めようと躍起になっていた先生も、飛鳥を軽く睨み付けた。
 中学校のときの成績がパッとしなかった飛鳥でも、この高校では一応学年トップクラスの一人として君臨している。
 そんなだらしないくせに優等生の飛鳥をクラスの皆はあまり好いていないらしく、先ほどまで携帯でメールをしていた茶髪の少年が顔を上げ、飛鳥をはやし立てた。

「お、学年トップの辻井様がいらっしゃったぜ。辻井様ー、今日も遅ーいご登場ですねーぇ」

 クラス中に爆笑が沸き起こった。言った本人も相当ウケたらしく、一際大声で笑いながら両手を叩いている。
 ストレスからか髪の毛が薄くなっている中年の先生が、飛鳥を鋭く睨み付けた。学年トップとはいえ、堂々と遅刻して堂々と授業をサボる飛鳥を、先生たちはあまり好んでいなかった。たまに飛鳥をベタ褒めする先生もいるのだが、彼の身勝手な行動にほとんどの先生は疲弊していた。
 飛鳥はそんなクラス中の視線を軽く無視して窓際の席に座った。窓際の一番後ろの席は、彼の特等席だ。鞄を床に置き椅子に座るなり机に突っ伏して眠り始めた飛鳥を、先生は肩をすくめて見つめていた。
 生徒は「辻井様はまだ眠り足りないみたいだ! 皆静かにしろよー!」なんて絶叫し、爆笑している。先生はしばらくその光景を見つめていたが、やがて口を開いた。

「辻井、何故遅れたのか理由を言いなさい」
「は?」

 飛鳥は面倒くさそうに顔を上げ、しかめっ面をしている先生を睨む。
 生徒たちが一瞬にして静まり、飛鳥と先生を交互に見た。何かおもしろいことが起こりそうだという好奇心の色がありありと表情に浮かんでいる。先ほど飛鳥をからかった茶髪の少年が嬉々として叫んだ。

「おおっ! 我らが担任の社会科教師、新藤センセー対皆のアイドル、辻井様の戦争勃発かー?」

 皆が再び笑い出す。が、その笑いはすぐに引いていった。クラス全員、飛鳥と新藤先生に流れる奇妙な空気に気がついていた。ニヤニヤしながら飛鳥の憮然とした表情を見る者、細い目で飛鳥を睨む新藤のモノマネをする者――。沈黙が流れた。
 最初に口を開いたのは、新藤だった。彼の表情には飛鳥に対する不快感が見て取れた。

「辻井、どうして遅れた。寝てたなら寝てた、サボってたらサボってた……ちゃんと説明しなさい」

 新藤の言葉を飛鳥は鼻で笑った。
 ――くだらない。
 小さく呟き、顎を上げて挑戦的な目で新藤を見つめる。

「別に説明する必要性なんてねぇだろ? 何で赤の他人にそんなこと教えねーと駄目なんだよ」

 新藤の顔が怒りで真っ赤に染まっていく。生徒たちが口笛を吹き、飛鳥に拍手した。飛鳥はそれを無視して舌打ちする。
 うざい。こいつらの全てがうざい。放っといてくれよ、俺は別にどうでもいいんだ――。飛鳥はそう叫んでやりたい衝動を押さえ、落ち着いた表情を繕って新藤を見上げた。
 新藤は完全に取り乱していた。いや、取り乱しているというより、怒り狂っていた。ギャラリーと化した生徒たちが愉しそうに事の成り行きを見守っている。
 やっぱりサボったらよかった。結局、学校なんか行っても楽しいことなど何も無い。飛鳥は後悔の念を頭から振り払おうと、そっと息を吐いた。

「……辻井、学年トップだからといって自惚れるな。朱音高校の学年トップなんて、一般の公立高校ではやっていけないぞ」

 傍観していた生徒たちが数人拍手した。だがほとんどの生徒は、ニヤニヤしながらこの戦いの結末について想像を巡らしている。
 飛鳥は既にうんざりしていた。”遅刻した理由に関しての説明”を求める先生にも、生徒たちの見世物と化している自分にも、さっきから口元をだらしなく緩めて二人を見ている生徒たちにも。何もかも壊してやりたかった。
 あまりにも腹が立って、飛鳥は拳で机を叩いた。すぐ隣に座っていた、派手なメイクをした女子がきゃあと悲鳴を上げる。馬鹿らしい、わざとらしい、汚らしい悲鳴。飛鳥は彼女を軽蔑の目で睨みつけると、視線をそのまま新藤に向けた。

「自惚れてなんかねえよ。あんたこそさ、自分に辟易してんじゃないのか? 自分はいつまで経ってもこんな馬鹿高校で勤務している。早く朱音高校を出て行って、もっとまともな高校で教えたい――なのに、いつまでも異動命令が出ない。イラついてんじゃねぇの」
「黙れ、辻井」

 新藤の顔色がどんどん真っ赤になっていく。まるで駅前の商店街の八百屋で売っているトマトみたいだと思うと、場違いな笑いがこみ上げてきた。肩を震わせながらも笑いを必死に堪えている飛鳥に気づいているのかいないのか、新藤が必死に言い返した。

「入学式の日のホームルームで言ったはずだ。私はこの朱音高校の生徒全員が、他の人々に軽蔑されない、礼儀正しく、素晴らしい生徒になるまで頑張っていくと。君たちが引け目を感じることのなくなるまで闘っていくと。それが私の教師としての使命だ」

 使命、だって? よく言うぜ。嘘だってことぐらい丸分かりなんだよ。今すぐこの学校から逃げたくてたまらないくせに。
 飛鳥は嘲笑を浮かべて新藤を見つめていた。充分な間を置いて、話し始める。

「別に俺たち、朱音の生徒だってことに引け目なんて感じてない。軽蔑の目で見てくる奴なんて放っておけばいい。なぜならそいつの方がよっぽど馬鹿だから。――先生、俺はそう思うんですけど」

 口笛と拍手が同時に沸き起こった。新藤は右手に持っていたチョークを強く握り締める。ぽきん、という小さな音がしてチョークが折れたが、本人は怒りのせいか全く気づいていない様子だ。飛鳥はこれ以上話す価値もないと悟り、再び机の上に突っ伏した。やれやれ、睡眠時間を無駄にした。心の中でそう呟きながらゆっくりと目を閉じる。
 新藤はしばらく怒りに震えたまま突っ立っていたがやがて正気を取り戻したらしく、未だに騒がしい生徒たちに向かって強い口調で言った。

「黙れ、お前たち! 授業進めるぞ。教科書の六十三ページを開いて――」

 だが、教室は静まり返ることなどなかった。新藤は相変わらず止まないおしゃべりを無視して社会の授業を進めている。無論、律儀に教科書の六十三ページを開いた奴など居ない。飛鳥は新藤の言葉など何も聞かずに眠っている。――朱音高校一年三組の、平凡な日常。
 チャイムが鳴り響き、飛鳥はようやく顔を上げた。その瞬間、新藤が飛鳥に鋭い目を向けてきた。先ほどの出来事をまだ根に持っているらしい。新藤は顔色一つ変えずに飛鳥を睨んだ。飛鳥も負けじと新藤を見る。
 クラスの人々が期待して見つめる中、新藤は冷たく言った。

「放課後、職員室に来なさい。――そのまま帰ることは許さんからな」

 飛鳥は舌打ちをしただけで、何も言わなかった。新藤は飛鳥が何も言わないことを確認すると、肩を怒らせて教室から出て行った。飛鳥はいかにもだるそうにため息を吐くと、再び机の上で眠り始めた。

 ちょうどその頃、職員室に一つの封筒が届いていた。
 職員室に入るなり教頭に封筒を渡された新藤は、宛名を見ると絶句した。
 【朱音高校 辻井 飛鳥様。感謝を込めて】




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