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みまなの小説置き場と化してます。(・∀・)
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長いです。
ほんとに長いです。
自分でも削れなくって涙目です><

 深い眠りから、今目覚めた。
 ねえ、私お腹がすいたわ。
 こうして五十年に一度の狩りに出かける。

 寂しいの。悲しいの。
 ずっと海の底で眠り続けるのは嫌だ。
 だから私は復讐する。
 私をこんな目にあわせた人間どもに、永遠の哀歌を捧げましょう。

   *

 あたしは鼻歌を歌いながら、その家の呼び鈴を鳴らした。最後に会ったのは多分去年の今頃。一年に一回しか会えない親友と再会するのが、待ち遠しくてたまらない。
 玄関から足音が聞こえてきたと思うと、すぐにドアが開いた。あたしたちはお互いの顔を見て、パッと目を輝かせて抱き合う。きゃあきゃあ言いながら飛び跳ねるあたしたちの後ろから、おばあさんがひょっこり顔を出した。
「久しぶりねえ、由衣ちゃん。ともかく家にあがって」
「はい、お久しぶりです! 今日から三日間よろしくお願いします」
 あたしはそう言いながら菜々の家にあがった。玄関のすぐ傍にある階段を上ると、そこには菜々の部屋がある。あたしたちは慌しく階段を上がり、その部屋の中に入った。菜々の大雑把な性格は相変わらずで、部屋には漫画や雑誌が散乱している。
 あたしと菜々は幼稚園の頃からの付き合いで、いわば親友だ。けれども菜々が家の都合で、五年前に彼女のおばあさんの地元に引っ越してしまってからは、会うことが年に一度だけになってしまった。
 あたしは五年前から、夏休みには菜々の家へ泊りがけで遊びに行っている。菜々をこっちに誘ってもいいのだけれど、菜々の家にいるほうが断然楽しい。ここの近くにある海が本当に綺麗で、あたしたち二人は毎年そこで海水浴をしていた。
「今年ももちろん海に行くんでしょ」
 菜々はあぐらをかいて、剥げかけたマニキュアを塗りなおしながら訊いてきた。あたしは菜々の細長い指とピンク色のマニキュア容器を交互に見ながら答えた。
「もちろん! 準備もバッチリしてきたもの。……あー、そういや受験勉強してる?」
 完成した自分の爪を眺めていた菜々は、受験の話題になると急に顔を曇らせた。
 菜々は昔から勉強が苦手だ。今通っている高校も、本人曰く、この近辺では三本の指に入るほどの頭の悪さらしい。
「もう私大学行けないかも。おじいちゃんたちに迷惑かけるのも嫌だし、就職しようかなあって」
 菜々には両親がいない。彼女がまだ幼い頃に交通事故で亡くなったらしく、ずっと祖父母に育てられてきた。都会から田舎に引っ越したのも、数年前頻繁に体調を崩していたおばあさんを気遣ってだと聞いている。
「そういえば、おばあさんは元気そうだね。引っ越してから風邪とか全然ひいてないんじゃない?」
「うん、私自身は由依と離れるのが寂しかったけど、結果的には良かったと思う。田舎の綺麗な空気の方がおばあちゃんたちには絶対良いよね」
 菜々は早口で言うと、勢いよく立ち上がった。床に転がっていたビーチバッグを手に持って、にっこりと微笑みかける。
「そろそろ行こうか。人いっぱいになっちゃうから」
 その言葉にあたしも立ち上がる。去年一緒に泳いだあの美しい海の風景が少しずつ蘇ってくる。賑やかに笑い合いながら玄関へ向かうあたしたちを見て、後ろからおばあさんが声をかけた。
「今年は海へ行くのはやめたほうがいいよ」
 出迎えてくれるのかと思っていたあたしたちは、驚いて振り返った。毎年海へ行くあたしたちの姿を快く見送っていたはずのおばあさんなのに。
 どう言い返したらいいのかも分からず、ポカンとしているあたしの傍らで、菜々が露骨に顔を歪めた。
「何で?」
 口の先を尖らせて突っかかる菜々に、おばあさんは真剣な顔で告げた。
「人魚に食べられてしまうからだよ」
「へ?」
 おばあさんの奇妙な発言に、あたしも声を出さずにはいられなかった。とうとうボケてしまったのだろうか。菜々もまったく同じことを思ったらしく、硬直したまま突っ立っている。
 風鈴の涼しげな音が暑い玄関に響き渡る中、おばあさんはゆっくりと話し始めた。
「このあたりには代々伝わる伝説があるんだ――」
 おばあさんの語り口には、人を惹きつける不気味な魅力があり、あたしたちはその話に真剣に聞き入った。

   *

 ――昔、数百年前。ここの海には人魚が住んでいた。透き通るような白い肌、腰まで伸びた黒髪、見る人全てを虜にする艶麗な容姿で、村に住むどんな美人の娘も彼女には敵わなかった。あまりに目映いその姿に村人たちははじめこそ警戒したが、人魚の気立ての良さと魅力的な喋りに男も女も夢中になり、信用を勝ち得るまでに時間はかからなかった。
 人魚は海辺で暮らしていた。そんなある日、村の若者が次々と行方不明になるという事件が起こった。元々小さい村だ、人々は大騒ぎ。行方不明になった人々に共通点があることを、一人の村人が見つけた。
 ああ、そうだよ菜々。共通点さ。その若者らは全員、人魚のところへ頻繁に通っていたのだよ。もしかしたら人魚が何か知っているんじゃないか。そんな噂が村中を駆け巡り、人魚を改めて警戒しだした者もいた。が、若者のほとんどは、あの魅力的な女を信頼し続けた。
 そして、とある青年が決定的な瞬間を目撃してしまったのだよ。

   *

 海までは案外近くて、徒歩でせいぜい十分程度。まだお昼前だというのに、浜辺は観光客と地元の人々でごった返していた。
 ビニールシートを敷く場所を探して歩き回り、ようやく小さなスペースを見つけた。本当はパラソルとかもあった方がいいんだけどね、なんて二人で言いながら、シートの上に腰を下ろす。
「ねえ、菜々」
 押しては引きを繰り返す波を見つめながら、あたしはさっきから思っていたことを言おうと菜々に声をかけた。
「ん、なあに?」
「さっきの話、信じる?」
「まさか、あの話はあくまで伝説でしょ。気にすること無いって」
「だよねえ、泳ごうか」
 あたしはほっと安堵のため息を漏らし、立ち上がった。
 やっぱりあの話は気にすることでは無いのか。菜々の一言を聞くと、さっきまで伝説について後ろ向きに考えていた自分が馬鹿馬鹿しく思えてくる。
 あたしたちは二人で訳も分からぬ大騒ぎをしながら、海に入っていった。
 太陽の光を受けてきらめく波間、都会では絶対に見られない澄んだ水の色、ひんやりと肌に心地よい水の感触。海の中で馬鹿騒ぎして楽しむにつれ、いつしか、あたしはおばあさんから聞いた伝説のことなどすっかり忘れていた。
 海からあがる頃には、太陽は真上に昇って浜辺を照り付けていた。ストライプ柄のビニールシートの上に寝転がっていた菜々が顔をしかめた。
「ひえー、やっぱお昼は暑いね」
 あたしは苦笑する。
「うん、今日は特に暑いらしいよ。日焼け止め意味ないかもね」
 しばらく沈黙が続いたのち、痺れを切らした菜々が立ち上がった。右手にワインレッドの財布を握り締めている時点で、彼女が何をしようとしているのかは察しがついた。
「もうだめ、暑すぎ。ってことでかき氷買ってこようと思うんだけど、由衣は何がいい?」
「んー、ブルーハワイかな。あたしも行こうか?」
「ううん、一人で大丈夫。すぐ戻るね」
 菜々は笑ってそう言うと、売店へ走って行ってしまった。
 一人になったあたしは、黙って辺りを見渡す。知り合いがいれば暇つぶしにもなるのだが、ここは自分の地元でもないし、もちろん知っている顔などどこにもなかった。
 雲の切れ間から陽光が差し、海に網の目のような白い紋をきらめかせている。波が音を立てて押し寄せたり引いたりを繰り返し、その都度小さな子供が嬉しそうな歓声を上げていた。澄み渡った海の中で遊んでいるカップル、友人同士、親子。その光景を見ていると、一人で佇んでいる自分が虚しくなってきた。
 携帯のディスプレイで時間を確かめる。菜々が行ってから三十分以上経っていた。この暑さだ。みんなが店に詰め掛けているのだろうか。
 そのまま待つにも暇なので、菜々のところへ行くことにした。この炎天下でじっとしているのは耐えられない。あたしは立ち上がり、熱気を放つ砂をビーチサンダルで踏みしめながら売店に向かった。
「菜々ー」
 案の定、売店の前には長い行列が出来ていた。あたしは行列の横を歩きながら菜々を探したが、最後尾まで行っても見つからない。
「もう……どこ行ったのよ」
 あたしは口を尖らせ、菜々を探し続けた。
 売店を通り過ぎてしばらく歩くと、人でびっしり詰まっていたビーチにも空きが出てくる。駐車場が遠く、遊泳禁止区域に近いのが原因だろう。
「あ」
 あたしは思わず足を止めた。砂浜から少し離れたところに、水色のビーチサンダルが転がっていた。ハイビスカスの造花がワンポイントになっているそれは、間違いなく菜々のものだった。
「どうしてこんなところに?」
 あたしはサンダルを拾って呟く。ここはビーチから離れているし、周りは鬱蒼と木が生い茂った不気味な場所だ。あの美しい海とのギャップを感じる人も多いのか、あたりには人影すら見えない。なのに、何故。
 サンダルから目を離すと同時に、あたしは菜々がおそらく行ったであろう場所を見つけた。
 そこは、通りがかるだけでは間違いなく見落としてしまうだろう、小さな岩窟だった。
 あたしはビーチサンダルを持ったまま、その中を進んで行った。潮のかすかな匂いがするその岩窟は、明るい外の世界とは裏腹に、真っ暗で何も見えない。あたしは片手を壁にあててゴツゴツした岩の感触を確かめながら、暗闇の中をゆっくりと進んでいく。
「菜々ー。いるのー?」
 試しに叫んでは見たものの、反響して響いていくだけで、菜々からの返事はなかった。あたしは少しだけ落胆したが、さらに奥へと進む。
 水の音が聞こえたような気がして、あたしは不意に足を止めた。いつの間にか一番奥まで来てしまったらしい。
 そこは湖のようだった。潜ると外に出ることができるのだろう、岩の隙間からかすかに光が差し込んでいる。大小様々な岩が湖の周りを囲み、小さな柵の役割を果たしていた。
 そんな湖の中を、一人の女が泳いでいた。あたしは咄嗟に声をかけた。
「もう、菜々! こんなところで泳いでたのー?」
 女が振り向く。その顔を見た瞬間、あたしから笑みが消えた。
 彼女の風貌は菜々とは正反対だった。腰まで真っ直ぐに伸びた黒髪、白く透き通った美しい肌、小さな顔に埋められたパーツ一つ一つが儚げな雰囲気を醸し出していて、あたしは思わず見入ってしまった。
 女は柔らかな笑みを浮かべる。
「どうしたの? 人探しかしら」
 彼女はあたしのすぐ近くまで泳いできて、すぐ傍の岩に背中を預けた。
「ここって人があんまり来ないから絶好のスポットなの。海に出ることも出来るけど、騒がしいのは嫌いだから」
「あの……ここに女の子が来ませんでしたか?」
 女は艶かしい微笑を浮かべた。その姿はあまりに妖艶で、ハッと息を呑みそうになる。
「どんな子?」
「んーと……茶髪で……どことなく派手な感じの子です。見ませんでしたか?」
 女は微笑を顔に貼り付けたまま、あたしを品定めするかのようにまっすぐ見据えた。その鋭い視線に、あたしは一瞬だけ戸惑う。
「その子、見たわよ。ここに来た」
「本当ですか! どこに行ったか――」
 すると突然、女はクスクス笑い始めた。菜々を見たと聞いて目を輝かせたあたしを馬鹿にしたような笑いで、あたしは彼女への不快感を隠せなかった。顔を歪ませた私を見て、女は笑うのを止めた。先ほどの優しそうな表情と一転、瞳孔の奥が鋭く光っている。
「ここにいるわよ。湖の中に入れば分かる。大丈夫、浅いから足が地面につくわ」
 彼女はそう言い終るや否や、あたしの腕を掴んで湖の中に引きずり込んだ。悲鳴をあげて湖の中に転がり落ちたあたし。岩の上を引きずられたせいか、背中が鈍く痛んでいる。岩の向こう側に立っていたあたしを引きずり込んだこの女――、凄まじい力を持っているのだと、思わず怯えてしまいそうになる。
 だが怯える暇などなかった。左足の感触に違和感があることに気がついたのだ。
 右足はサラサラとした砂の感触なのだが、左足は何か硬いものに触れているような気がする。
 あたしは水の中に手を突っ込んで、その硬い物を引き上げた。そしてそれを見た瞬間、思わず息を呑んでしまった。
「骨……?」
 硬くて白い、どこからどう見ても骨。長さは自分の人差し指の倍ぐらい、太さもそこそこあって、体をしっかりと支えていたであろう、丈夫そうな骨だった。
 どうしてこんなところに――? そう訊こうとしたあたしを、女が目で制した。
「人食い人魚の話を聞いたことは無いかしら」
 彼女の言葉を聞いて、あたしは数時間前に菜々のおばあさんに言われたあの伝説のことを思い出していた。

   *

 その青年が見た決定的な瞬間。彼は――人魚が人間を食べているのを目撃してしまったんだよ。青年の証言によって、今まで人魚を訝しんでいた村人たちが暴動を起こした。止めに入ろうとする人々を振り切り、彼らは海辺の岩に座っていた人魚に暴力を振るった。多勢に無勢で、抵抗できぬままぐったりして動かなくなった人魚を、人々は海の底に沈め、二度と村人たちの前に現れないようにした……はずだった。
 そう、人魚は死んでいなかった。生きていたのだよ。だが厳密に言うと、我々の前に現れたわけではない。あれから彼女は、一度も人間の前に姿を現したことは無い。だが村では、奇妙な事件が起こった。
 五十年に一度、あの海では若者の失踪事件が起こっている。私がまだ若かった五十年前も、海に遊びに来ていた男女五人のグループが突然失踪し、今も行方知れずのままだ。
 これはあくまで噂、というか伝説に過ぎないのだが――、人魚が五十年に一度目覚め、人間を食い続けているのではないか。村人は長年そう噂してきた。最初の失踪事件が起こった時から、代々語り継がれている。
 五十年前以来、あの海で失踪事件は一度も起こっていない。だが……今年がその年なんだよ。人魚が目覚めるといわれている年なんだ。もしかしたら私の杞憂なのかもしれない。でも海に近づかない方がいいのでは――。

   *

 心配そうに眉をひそめるおばあさんを振り切って、あたしたちは出かけた。さっきまでそんな伝説の話などすっかり忘れていた。
 そういえば、目の前に居る女とおばあさんが語った人魚は容姿が似ている。
 でも……まさかそんな。人魚なんておとぎ話の存在でしかない、ましてや人食いだなんて……。
 そう自分に言い聞かせてみたものの、自分の足が水の下で震えているのを感じた。もしかしたら、あたしが今この手で握っている骨は――……。
「食べちゃった、あなたのお友達」
「う、嘘でしょ。冗談でしょ」
 消え入りそうな声で反論したものの、あたしは今にも泣き出しそうになっていた。骨を持つ手が小刻みに震える。心の奥底に渦巻いているのは、最悪のシナリオ。
 女はあたしが動揺しているのを完全に見抜いていた。ゆっくりと近くまで泳いできて、あたしの右腕をぐっと掴む。あまりに突然で抵抗できなかった。震える手から骨が滑り落ちた。
「その骨はあなたのお友達のもの」
 骨は呆気なく沈んでいった。
 女はにっこりと笑い、腕を強く握ったまま、顔をぐっと近づける。
「怖い? 食べられるのが怖い?」
「冗談でしょう。菜々を食べたなんて、そんなの……」
 今すぐ大声で泣いてやりたい。泣き叫んでやりたい。そんなあたしの気持ちとは裏腹に、涙など一滴も出てこなかった。
「本当よ。頭からばりばりと。今にあなたも骨だけになる」
「嫌だ――」
 あたしはゆっくりと首を横に振った。こういう時はどうすればいいのだろう。逃げ出したくても逃げられない。死にたくない。死にたくない。女は不気味に笑った。
「さあ、そろそろ時間ね」
 べったりと絡みつくような猫なで声に、あたしは背筋を震わせた。
「やだ……やめて……殺さないで……」
 無駄だと分かっていても命乞いをしてしまう。
 おばあさんの顔が脳裏をよぎった。あの時伝説についてもっと真面目に考えていれば、こんなことは防げたのかもしれない。菜々も死なずに済んだのかもしれない。でももう遅い。
「嫌……」
 精一杯の抵抗を無視し、女はあたしの腕に爪を食い込ませる。赤い鮮血が腕を流れ落ち、澄んだ水の上にぽたぽたと落ちた。
「やめて……」
 女は舌なめずりをしながら笑う。その顔は人魚というよりも、童話の中で人魚と取り引きをした魔女のようだった。女は細い腕を伸ばし、あたしの肩に乗せる。
「いや……だ……」
 最後の最後に零れ落ちた一滴の涙は、死にゆくあたしへの餞。

   *

 私は血に濡れた骨をうっとりと眺めた。一日で二人も殺した。私の心の中は何ともいえぬ満足感で溢れていた。
 人殺しというのは、計画さえしっかりしていれば案外簡単だ。ここの者は人魚の伝説を持ち出しただけで怯えだす。二人ともそうだった。人食い人魚の話の効力は思っていたよりも強い。あたしは血の生々しい匂いを吸った。
 私は殺人鬼になる予定だ。何故予定なのかというと、まだ二人しか殺していないから。初めての殺しは興奮した。血の匂いが私の心をくすぐった。病みつきになりそうで、というか実際に病みつきになって、二人目を殺した。
 そして皮を剥ぎ、肉をえぐり、骨を取り出した。肉体の中に入っている、目映くて美しい白い物を。人間の体にはこんなに綺麗なものが入っているのかと感嘆してしまう。人を殺すことの愉快さと、骨を眺めたときの感動が味わいたくて、私は殺人鬼になる。
 三人目の獲物はどうしようか。またここに迷ってくるのを待つか、別のところに行くか――。
 突然、背後から水を掻く音がした。気のせいだと思って無視したが、音は遠のくどころか近づいてくる。私は振り向いた。
「……あんたは……」
 そいつは低い声で鼻歌を歌っていた。聞いたことの無い曲で、悲しい旋律だった。
「人間どもに、永遠の哀歌を」
「……まさか、そんな」
 そいつが私の上に覆いかぶさってくる。私はギュッと目を瞑った。何が起こっているのか理解できない。悲しい歌が止んだと同時に、私は意識を失った。

   *

 目覚めた私が最初に食べたのは、猟奇的な殺人者。
 殺された人間の骨だけが丁寧に並べられていた。
 私は復讐のために罪なき人間を食べる。

 海の底で眠る苦痛を知ってもらおうとは思わない。
 私はただ、復讐する。
 人間どもに永遠の哀歌を捧げるために――。


   完
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