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不良少年ってもしかしてryとか思っても口に出さないのが優しさなんですよ^^
久々に美少女キャラ書いた気がする。
いつも男だか女だかわかんないのばっかり書いてるもんなあ、私。

1.美しく燈る蛍


 空を覆う羊雲を見上げて、深呼吸する。息を吐くと、自分の中にある薄汚れたものが出て行くような気がした。それはタバコのせいかもしれないし、酒のせいかもしれない。どちらにしても、俺はこの国、学校、町において、ゴミみたいな存在にすぎない。そう、ゴミ。自分を卑下しているつもりはない。
 鼻歌を歌いながら、俺は学校から逃げた。校舎から聞こえる教師の罵声も、授業を放ったらかしてグラウンドを全速力で横切って向かってくる生活指導の野郎も、俺の敵じゃない。エスケープにしてはあまりにも悠々と歩いていたせいか、校門を出て十メートルほどの場所で追いつかれてしまった。肩をつかまれる。
「んだよ」
 俺はいつも通り、生活指導で体育教師でもある村本との言い争いを楽しむことにした。
「教師に向かって何だその口の利き方は! まだ授業中だろ、石森。早く教室に戻れ」
 怒った熊のように鼻息荒いこの村本という男、気弱な他の教師とは比べ物にならないほどがっちりとした体格をしている。俺にまともにぶつかってくるのは、この高校のどこを探してもこいつ一人しかいないだろう。このご時世には珍しい熱血教師でもあり、彼の担任するクラスの生徒は毎年、体育祭前には地獄を見ることになっている。
「別にもう十分ぐらいで終わるんだからいいだろが」
 大体俺が戻ったところで喜ぶ奴なんか誰もいない。むしろ迷惑をかけるだけだ。
 と、内心でつぶやく。
 貧弱な担任は俺が何気なく話しかけただけで幽霊にでも出くわしたかのように震え上がるし、クラスメートたちは極力俺に関わらないようにしている。そして俺が今日みたいに脱走すると、ほっと胸をなでおろすのだ。やれやれ、厄介者がいなくなった、と。
「いいわけないだろう。ほら、さっさと教室に戻れ」
「やだね。誰が戻るかよ、あんなつまんねークラス」
 そろそろ鬱陶しくなってきて、俺は制服の袖をつかんで引っ張ろうとする村本の手を振り解いた。村本の動きが止まった隙に、走る。路地裏に逃げ込み、立ち入り禁止のフェンスを越えた。これぐらいしなければ毎回追ってくるのだ。暑苦しいにも限度がある。
 村本はフェンスのところまで走ってきたが、【この先立ち入り禁止】の看板を見て、舌打ちと共に去っていった。
「バーカ」
 肩をいからせて撤退する村本の後姿に叫ぶと、俺は鼻歌の続きを歌いながら、河原沿いの道をうろうろと徘徊した。俺の住んでいる町は市街地から離れていて、デパートなんてありゃしない。あるのは田んぼと畑と住宅地ぐらいの、いわゆる田舎だ。電車に乗ればゲームセンターに行くこともできるのだが、あいにく俺は所持金を使い果たしていて、閑散とした道を歩くしかなかった。
 アスファルトの上に転がっていた小石を蹴る。早くも俺は、村本の忠告を聞いて学校に戻っておくべきだったと後悔し始めていた。このまままっすぐ家に帰るのも味気ない。だからといって外をぶらついても全然楽しくない。無性に腹が立ってきて、横を流れる小川に石でも投げてやりたくなってきた。アスファルト脇の草むらに転がっていた拳ほどの石を拾い、右手を挙げかけたところで、河原に続く段差に人が座っているのを見つけた。

「…………」
 俺は石を握り締めたまま、柄にもなく、そいつに見とれていた。
 隣村の女子高の制服を着たその少女は、長い黒髪を腰までまっすぐに伸ばしていた。前髪が眉のところで切り揃えられている点以外は非の打ちどころがなく完璧で、ここまで整った容姿だと、その前髪さえも可愛らしく感じてしまうから不思議だ。透き通るような白い肌をした彼女は、微動だにせず、川をまっすぐに見つめていた。
 手から石が滑りおち、アスファルトに当たってカツンと音を立てた。少女が振り向く。目が合った。いかにも不良少年という出で立ちをした俺に対する恐怖は、露ほども見られなかった。むしろ好奇の色が浮かんでいる。もしかしたら彼女も、学校に嫌気がさして逃げてきたのだろうかという淡い期待を抱きつつ、俺は図々しくも彼女の隣に座った。
「やあ」
 何と言ったらいいのか分からなくて、とりあえず挨拶する。少女は俺の顔をじっと観察し、軽く会釈した。表情から察するに、不快には思っていないようだ。
「学校、もう終わったのか?」
 終わっているわけがない。彼女は、学校を抜け出してきたのだ。そんな確信を持ちながらも尋ねる。
「考え事があって、抜け出してきちゃいました。あなたもですよね」
 思っていたよりも低い声だった。そよ風と共に黒髪が微かに揺れる。
「そう、授業はダルいわ先生はウザいわで。ほんと、やってらんねーよ」
「私は学校が嫌いなわけじゃないんです。先生も授業も好きだし、友達だっています」
 俺は面食らって少女の顔を見た。脱走なんて、学校が鬱陶しいからというただ一つの理由のためにするものだとばかり思っていた。いや、大多数の不良たちはそうだろう。でも彼女は、不良とは少し違っている感じがした。――いや、むしろ、きちんとした身なりや言葉遣いからして、”不良”というカテゴリーに分類すること自体がナンセンスに思えた。
 彼女は何も言わずに、静かに揺らめく川の水面を見ていた。ゴミがほとんど見当たらず、水質そのものが綺麗な清流であるのも、町の人々の努力の賜物だ。小さいころはよく清掃活動に駆り出されていたなあ、とふと思い出す。いつからだろう、この川を汚すようになってしまったのは。それは、学校に飽きはじめた時期と重なっている気がする。
「私、さっきも言ったとおり、考え事があったんです」
「学校では考えられないほど大きな?」
「そうです。授業どころじゃないんです」
 彼女はこくりと頷いた。俺は彼女の意図がよく分からなくて、首をかしげる。考え事のために学校を抜け出した人を初めて見た。正直に言うのも失礼な気がして、そのまま黙っておくことにする。

「あぁ」
 間延びした声がして、俺は彼女の顔を見た。
「私、まだ名前言ってませんでしたよね」
「え。あ、ああ……そうだな」
 彼女の背筋がピンと伸びた。地面と垂直になっているかのような完璧な姿勢。膝に両手を揃えて置き、俺に向かって深々と頭を下げた。
「公家 ほたると申します。どうぞよろしく」
「え……っと、俺は石森 勇斗」
 恭しく自己紹介したほたるとは対照的に、俺は自分の名前をぶっきらぼうな口調で告げただけだった。ほたるはそれでも満足したようで、柔らかな笑みを浮かべた。俺のピアスと茶髪に目をやり、言う。
「あなたは、いわゆる不良さんですね」
 改めて言われると、困る。俺は返答しようと口を開きかけたものの、うまく言葉にすることができなかった。思わず舌打ちする。その直後、ほたるが舌打ちに怯えないかと心配したが、それは杞憂だった。ほたるは俺に怯えることも恐怖で震えることもしなかった。芯の強い少女だ。
「私、不良さんってはじめて見ました。――私、ほとんど村から出たことないし。この町に来るのも、珍しいんですよ」
「買い物とかもしないわけ? 服買ったりとかさ」
 たしかに古風な雰囲気をした子だとは思ったが、ほとんど村から出たことがない、というのには驚きを隠せなかった。隣村はこの町よりもさらに人口が少なく、過疎化が進んでいる地域だ。大きな建物、といっても村役場とほたるの通う女子高ぐらいで、買い物も満足にできないところだった。
 それなのに、年頃の女の子が村からほとんど出たことがない? 驚きだ。俺ですら、この町から一刻も早くおさらばして、都会へ働きに出たいと思っているのに。
 よっぽど意外そうな顔をしていたのだろう、ほたるはクスリと笑った。
「本当なんです。私、村の外へ出るのって年に数えるほどで……。服も必要であれば執事が買ったり作ったりしてくれますし……」
 ――執事?
「ちょっと待て。お前の家は執事がいるのか?」
 今度はほたるがきょとんとする番だった。瞬きを繰り返し、目を大きく見開く。
「あれ、知らないんですか」
 普通の人なら知ってるんですけど、というニュアンスが込められていて、いくら美少女といえど少し腹が立つ。
「何をだよ」
「霧立村の公家家って、ご存知ありません?」
 頭の弱い俺は、残念ながら聞いたことがなかった。
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