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みまなの小説置き場と化してます。(・∀・)
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ぼくはまだ罪無き以下略。
モデル曲はポルノグラフィティ「ドリーマー」。
いい妄想曲です^^^^


【ドリーミン・ドリーマー】


 ぼくの頭の中は、あの子のことでいっぱいだ。勉強をしていても、家でゲームをしていても、あの子の向日葵みたいな笑顔が頭から離れない。向日葵みたい、という安直な比喩を使いたくはないけれど、本当に、向日葵としか例えようがない。太陽の光をいっぱいに受けて、すくすくと伸びていく向日葵の花。彼女はそんな人だった。鈴蘭のようにしとやかなわけでもなく、薔薇のように情熱的でもない。明るくて活発で、周りにいる人を元気にしてしまう不思議な魔力を持った向日葵なのだ。
 シャーペンの芯がポキリと折れた音がして、ぼくは頭を持ち上げた。どうやら勉強しながら眠っていたらしい。真っ白だったはずのノートにはミミズのようなシャーペンのあとが残っていた。思わずため息が漏れる。明日テストだというのに、ぼくは何をしているのだろう。ぐうぐう居眠りをして、あの子のことばっかり考えて。最近の順位ガタ落ちの原因は、間違いなくあの子だ。
 一呼吸おいて、再びノートに向かう。シャーペンでぐちゃぐちゃになった紙は破いてゴミ箱に捨てた。くしゃくしゃに丸められたそいつはぼくを悲しそうに見上げる。それを無視して、ぼくは英語の教科書の文章を書き写していった。
「the most beautiful」
 白雪姫の物語にさしかかったところで、僕は手を止めた。ああ、やってしまった。ザ・モースト・ビューティフル。その言葉だけで彼女のことを思い出してしまったのだ。僕の頭の中のスイッチは勝手に押された。勉強モードから妄想モードに切り替わった僕の脳みそは、あの子の姿を映し出した。白雪姫の文章を大きな声で読み上げるあの子はいつも通りかわいらしくて、その直後に指された僕は質問なんか聞いていなくて。どもりながら答える僕を見てクラスのみんなが笑った。
 いけないいけない。ぼくは頭をふるふると振って彼女の姿を頭から退けた。もう一度シャーペンを握りなおして、教科書の内容を一字一句丁寧に書き写していく。
 どれくらいの時間が経っただろうか。お母さんが階段を上がってくる音を聞いたぼくは、ハッと目を見開いた。さっきまで勉強していたはずの自分の部屋は真っ暗になっている。電気がないと勉強できないぐらいに。嫌な予感がして、時計を見た。確かさっきは五時ごろだったはず。
 時間はあまりにも非情だった。さっきまで五時を指していた時計の針は、二周も回って七時になっていた。ぼくは嘆いた。どうして自分はこう、ぐうぐうぐうぐうぐうぐう眠ってしまうのだろう。寝不足だろうか、と九時に寝て六時に起きる健全なぼくにふさわしくない考えが浮かぶ。寝不足なんかじゃないことは、一目瞭然だった。
「ご飯、できたわよー」
「今行くよ」
 お母さんの声を適当にあしらって、仕方なく立ち上がる。テスト勉強はまったくできなかった。いくらなんでも眠りすぎだ。部屋のドアノブに手をかけたその時、背後から聞き覚えのある声がした。
「恋の病、ってやつね」
 声を聞いた瞬間、ぼくの心臓は跳ね上がった。ソプラノ、というよりはアルトに近い、聞いていて心地よいこの声の主は、言わずと知れたぼくの想い人。おそるおそる、できるだけ時間をかけて、ぼくは後ろを向いた。予想通り、ぼくの学習机の上に、あの子が座っていた。
「ど、ど、どどどうしてぼくの家に?」
「窓から来たの。お邪魔かしら?」
「窓からって……ここ、二階だよ。よじ登ってきたわけ?」
 まさか、そんなこと有り得ない。そう鼻で笑ってくれるのを期待したが、返ってきたのは正反対の答えだった。
「うん、まあ方法はあんまり聞かないで。言いたくないから」
 彼女はあっさりと頷き、机の上であぐらをかいた。格好はまるで男の子なのに、それでも女の子らしいところはいたるところに見つけられる。腕にはめているピンクのブレスレットだとか、人気キャラクターのストラップをつけて表面をデコレーションしている携帯電話だとか。ボーイッシュなショートカットも、彼女のかわいらしさを引き立てる一つの要因となっている。ぼくがぽかんと見とれているうちに、彼女はにっこりと微笑んで話し始めた。もちろんその笑顔も、非の打ち所がない。
「でさあ、あなた、勉強はかどってないみたいね」
 半ページしか進んでいないノートを眺めている彼女を見つめていた僕は、はっと我に返った。すべてをかき消すかのように、僕は慌てて両手を振る。
「そ、それにしても君はどうしてここにいるんだい? テスト前日なのに」
 彼女は僕の問いには答えず、また笑った。しばらくの沈黙の後、彼女が呟くように言う。
「恋の病、ねえ。あなた、恋してるんでしょ」
 あまりにも直球な質問だった。僕は答えが浮かばず、戸惑った表情のまま立ち尽くす。なんといっても、恋の相手は目の前のあの子なのだ。彼女の大きな瞳が、僕の細い眼をとらえてはなさない。今すぐドアを開けてこの場から逃げ出したい衝動と、このままずっと彼女を見ていたいという欲望に駆られる。
「そ、それが、どど、どうしたっていうんだ」
 やっとのことで答えたが、自分でも恥ずかしいぐらいに呂律がめちゃくちゃだった。体が熱い。顔まで真っ赤になっているなんて醜態を晒していなければいいが。内心焦り始めたぼくに気づいているのかいないのか、彼女はいたって冷静にぼくを見つめていた。やがて、そっとため息をつく。
「私にはわかるの」
「何が?」
「あなたが恋の病にかかってるってことが」
「何で?」
「だって……」
 彼女はそこで、一度言葉を切った。再び僕の眼をまっすぐに見つめてくる。彼女の瞳に宿る強い意志に、僕は少したじろいだ。さっき見たときとは違う感情が、たしかに、彼女の中にある。それが興味深くて、怖くもあった。
「だって、何?」
 おそるおそる、尋ねる。
 充分な間をあけたあと、彼女はにっこりと笑い、言った。
「私もあなたと同じ、恋の病ってやつにかかってるから」
 すきだよ、と言われた気がした。ただそれはあくまでも「気がした」だけであって、確信は出来ない。でも単純なぼくは、酸素を求める金魚のように口をぱくぱくさせて、その場にぶっ倒れた。

「ご飯、できたわよー」
 お母さんの声がして、僕は目覚めた。酸欠状態の頭をゆっくりと持ち上げる。英語の書き取りは半ページしか進んでいないくせに、部屋はもう真っ暗になっていた。時計を見る。さっきまで五時だった時計は二周していて、七時になってしまっていた。また眠ってしまった。
「ご飯、できたわよ。聞いてるの?」
「うん、今行く」
 同じ会話を、さっきした覚えがあった。立ち上がって扉を開けようとしたとき、先ほどの出来事を思い出した。後ろを振り向いてみたが、もちろん誰もいなかった。壁をよじ登って二階に侵入してくる人なんて、いるわけなかった。少しだけ失望する。やはりあれは、ぼくの創りだした妄想の世界だったのだ。眠っている間に、妄想の世界に堕ちてしまっていたというわけ。なんだ、と肩をすくめずにいられなかった。
 それでもぼくはめげずに妄想を続けるのだ。もうテストなんてどうでもいい。ぼくの頭の中に、あの子がいれば。


 おしまい。
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